AWS大阪リージョンとは?生まれた背景と、そのメリットについて詳しく解説します!

2021.09.22

AWS

※この記事は2025年7月29日に更新した情報です。

はじめに

AWS(Amazon Web Services)は、西日本で特定のワークロードを実行する企業ユーザーを支援するために、2018年にAWS アジアパシフィック(大阪)ローカルリージョンを立ち上げました。2021年には3つのAZを備えたフルリージョンに変更。東京リージョンと同様に単一でも利用できるようになりました。

今回の記事では、この大阪リージョンが生まれた背景と、フルリージョンへの発展の経緯、そして大阪リージョンを使うことのメリットについて詳しく解説します。

目次

 

AWS 大阪リージョンとは?

大阪リージョンと東京リージョンの所在が記された日本地図

 

AWSにおけるリージョンとは?

AWSは、グローバルなクラウドコンピューティングサービスを提供するため、世界各地にデータセンターを持っています。地域ごとに分割されて管理されている、これらのデータセンターを彼らは「リージョン」という単位で呼んでいます。

リージョンとリージョンの間は完全に分離されていますので、あるリージョンで万一障害が発生しても、他のリージョンに影響がおよぶことはないように設計されています。このメリットを利用して、複数のリージョンを縦断してシステムを構築することにより、システムを運用するリージョンに大規模障害が発生した場合でも、サブシステムを運用する別のリージョンに切り替えることによって、システムの停止に見舞われることなく、高い可用性を備えたシステム運営を実現することができます。

 

アベイラビリティゾーン(AZ)とは?

1つのリージョンは複数の「アベイラビリティゾーン(availability zone: AZ)」から構成されています。

availabilityとzoneはそれぞれ日本語で「可用性」と「地域」を意味しており、例をあげると、AWSアジアパシフィック(東京)リージョンap-northeast-1 では、ap-northeast-1a、ap-northeast-1c、ap-northeast-1dの3つのAZが提供されています。(2025年7月現在)

AZもリージョンと同様に独立していますが、互いに高速な通信線によって接続されている点がリージョンとは異なります。同じリージョン内であればAZをまたいでデータを複製することや、別のアベイラビリティゾーンのリソースを参照することなどが可能で、リージョンと比べて、より一層シームレスにデータやリソースを連携させることができます。

AZを同時に2つ以上使用し、サーバーや機能、データを分散して配置することをMulti-AZ(マルチAZ)と呼んでいます。バックアップやフェイルオーバーについてAZを縦断してMulti-AZで運用することにより、可用性や耐障害性を高めることができます。

 

AWS大阪リージョンの特徴

AWSのアジアパシフィック(大阪) リージョンは、日本では東京リージョンに続いて2番目、アジア太平洋地域では9番目、世界では25番目に新たに開設されたリージョンです。特に西日本のユーザーは、大阪リージョンを利用することによって、レイテンシー(通信遅延)を低くすることができるのが大きなメリットです。

また、障害発生時に業務継続性要件が求められるケースの場合、直線距離で約 400km 離れた場所に位置する  AWSアジアパシフィック(東京)リージョンと組みわせて利⽤することにより、単⼀のAWS リージョン内にあるマルチ AZ 構成ではリカバリーが難しい災害への対応が可能になります。アプリケーションを、大阪リージョンと連携して冗長化したシステム構成を組んで運用することにより、災害対策がしやすくなり、複雑なワークロードや基幹系システムを異なる2地点で動かすことができます。

また大阪リージョンには3つのAZがあり、電力供給や通信回線などの物理的設備については、それぞれ他のAZと独立したデータセンター群として運営されています。このことにより、東京リージョンとの連携利用だけではなく、大阪リージョン単独でも耐障害運用を行うことが可能になりました。

 

AWS大阪リージョンが生まれた背景と発展

大阪リージョンが誕生した経緯・背景と、その発展について整理してみましょう。

 

2011年:AWS東京リージョンが正式に開設

2011年3月、AWSは東京にデータセンター(東京リージョン)を開設しました。東京リージョンはシンガポールに次いで、アジアパシフィックでは2番目、全世界では5番目のAWSのクラウドの拠点として開設され、東京でAWSを利用している企業のインフラを高速・低レイテンシーで利用できるようになりました。

日本語の24時間テクニカルサポートも開始され、AWSのベーシック及びプレミアムサポートが日本語で利用できるようになり、国内に一気にクラウドブームが到来する契機になりました。

1つのリージョンによる限界

東京リージョンの登場は、国内の企業インフラ環境を、一気にクラウド環境に移行させる効果がありましたが、国内に単一のリージョンしかないことによって、以下の2つの課題がありました。

(1)東京リージョン以外にDR(ディザスタリカバリ:障害対策)サイトが必要

(2)DRサイトは災害対策上、互いに100㎞以上離れた地点にあることが必要

大規模な災害が発生した際にも企業システムが稼働停止しないためには、十分な地理的距離を持ったDRサイトの存在は必須です。東京のみの単一リージョンでは、この面で不安がありました。

 

2018年:AWS大阪ローカルリージョンが開設

こうした流れの中で、東京リージョンの登場から7年後の2018年2月13日に、大阪ローカルリージョンが開設されました。当初、大阪リージョンは、東京リージョンのようなフルリージョンではなく「ローカルリージョン」と呼ばれる制限付の設計概念を持ったデータセンターであり、東京リージョンで稼働させているシステムやデータのバックアップとDRのための利用を前提にしていましたが、金融系のサービスなど、法制度の要件によって、データの冗長性を国内のデータセンターで確保する必要がある場合、大阪ローカルリージョンを利用できることは大きな強みとなりました。

但し、AWSにおけるリージョンには、複数のAZが存在しているのが通常ですが、大阪リージョンはこの時点でAZを1つしか持たない単一のデータセンターでした。そのため、あくまでも東京リージョンとの併用を想定されており、単独の使用申し込みにも応じていませんでした。

 

2021年:AWS大阪スタンダードリージョンとして提供が開始

前述のように、大阪ローカルリージョンは、あくまで東京リージョンに対するDRサイトというポジションであることから、メインサイトとして使うことはできませんでした。そのため、利用の形に制約があり、使い勝手に課題が残されました。

利用企業の要望に応じ、これらの課題解決のために、AWSは2021年3月2日に大阪ローカルリージョンを「単一のアベイラビリティゾーン」から「3つのアベイラビリティゾーン」に拡充し、スタンダードリージョンに変更しました。このことにより、大阪リージョン単一でも利用できるようになったため、東京リージョンのDRサイトとしての利用に限定するという制約がなくなりました。

 

ローカルリージョン時代との5つの違い 

大阪リージョンが、ローカルリージョンからスタンダードリージョンに変わったことにより、生じた変化について整理してみます。主に5つの違いがあります。

1. シングルAZから複数AZへ

当初、大阪ローカルリージョンは、あくまでも東京リージョンのDRサイトとして設定されていたため、シングルAZ(単一のデータセンター)で構成されていました。そのため、DR対応として、東京リージョンのサブ的な用途に限定され、単独での利用には不向きでした。スタンダードリージョン化によって3つのAZを備えるようになり、大阪リージョンでの単独利用に道を開きました。

2. 事前の申請と審査が不要に

大阪ローカルリージョンでは、事前の申請と審査がありましたが、フルリージョンになったことにより、他のリージョンと同様に事前申請は必要なくなり、利用者の利便性が大きく向上しました。

3. 東京リージョンとの併用が必須ではなくなった

大阪ローカルリージョンは、東京リージョンのDRサイトとしての位置づけでしたので、東京リージョンとの併用が基本となっていました。そのため、通常のリージョンのような単独利用を行うことはできませんでしたが、スタンダードリージョンになったことにより、通常のリージョンと同様に単独での利用申請ができるようになりました。

4.無料利用枠が利用可能に

AWSの通常リージョンでは、アカウントを新規作成した日から、1年間有効な無料利用枠があります。 これを利用すれば、EC2インスタンスの場合、750時間/月までの範囲でサービスを無料で利用できるというもので、初めてAWSをトライアルとして利用する企業には大変に便利なサービスです (※) 。大阪ローカルリージョンではこれが使えませんでしたが、スタンダードリージョンに変更されたことにより、無料利用枠が利用可能になりました。

※使用できるリソースについては制限があり、EC2インスタンスの場合
インスタンスタイプは t2.micro または t3.micro、OSは Linux、RHEL、SLES、Windows を指定する必要があります。

5. 提供されるサービスが格段に広がった

大阪ローカルリージョンでは、使えるサービスは基本機能に限られており、仮想サーバーやバックアップ用途については利用可能ですが、クラウドネイティブのサーバーレスなアーキテクチャには非対応でした。スタンダードリージョンになり、クラウドネイティブなアーキテクチャを、大阪を含めたマルチリージョンで使えることになりました。(利用できるサービスについては次章)

 

大阪リージョンのサービス内容

フルリージョンになった大阪リージョンでは、現時点では東京リージョンとほとんど変わらない、AWSの多くのサービスを使うことができます。

以下のサービス内容は、「2025年7月時点で、弊社でAWSの管理コンソールから大阪リージョンを指定して、一つ一つ利用可能であるかを確認した」サービスになります。

あくまでも指定日時現在のものであることと、「このリージョンではまだ利用できません」と表示されるものは省いたものとなっており、実際に利用確認まではしておりませんので参考データとしてご活用ください。

コンピューティング

EC2

Lightsail

Lambda

Batch

Elastic Beanstalk

AWS Outposts

EC2 Image Builder

EC2 Global View

ストレージ

S3

EFS

FSx

S3 Glacier

AWS Backup

Recycle Bin

AWS Elastic Disaster Recovery

コンテナ

Elastic Container Service

Elastic Kubernetes Service

Red Hat OpenShift Service on AWS

Elastic Container Registry

データベース

Aurora and RDS

ElastiCache

Neptune

DynamoDB

Aurora DSQL

ネットワーキングとコンテンツ配信

VPC

CloudFront

API Gateway

Direct Connect

AWS App Mesh

Global Accelerator

Route 53

AWS Cloud Map

Application Recovery Controller

開発者用ツール

CodeCommit

CodeBuild

CodeDeploy

CodePipeline

Cloud9

X-Ray

Infrastructure Composer

AWS AppConfig

管理とガバナンス

AWS Organizations

CloudWatch

CloudFormation

AWS Config

Service Catalog

Systems Manager

Trusted Advisor

Control Tower

Amazon Q Developer in chat applications (旧称: AWS Chatbot)

Launch Wizard

AWS Compute Optimizer

Resource Groups & Tag Editor

AWS Health Dashboard

AWS User Notifications

CloudTrail

AWS License Manager

AWS Resource Explorer

Service Quotas

※この他に、ロボット工学、ブロックチェーン、衛星、メディアサービス、Machine Learning、分析、セキュリティ、ID、およびコンプライアンス、クラウド財務管理、モバイル、IoT、ゲーム開発等の諸サービスの利用が可能です。
詳しくは以下の公式ページを御参照ください。
AWS リージョン別のサービス

※大阪リージョンはM4~M7g、T2~T4g、C4~C7gd、R4~R7i、U-6tb1、X1~X2iedn、D2、I3~I4i、G4dn 等各インスタンスを利用出来ます。
詳しくは以下の公式ページを御参照ください。

リージョン別 Amazon EC2 インスタンスタイプ

※国内2つのAWS リージョンである東京と大阪に加えて、日本の顧客は以下のインフラストラクチャも活用できます。
・CloudFrontエッジロケーション、リージョナルエッジキャッシュ
東京にある2か所のAWS Direct Connect ロケーション
大阪にある2か所のAWS Direct Connect ロケーション
印西にある1か所のAWS Direct Connect ロケーション
詳しくは以下の公式ページを御参照ください。
Amazon CloudFront 
AWS Direct Connect デリバリーパートナー

 

国内に複数のリージョンを持つ国は限られている

AWSはほとんどの国で、基本的には各国で1つのリージョンのみを提供しており、複数リージョンを提供している国は限られてます。この点について触れていきます。

2つのリージョンを備える日本

AWSでは、現在33のリージョンを展開していますが(2025年7月現在)、大阪リージョンは25番目に開設されたリージョンです。リージョンのリストを眺めてみるとほとんどの国では多くても1つのリージョンしか提供されていないのに対し、米国では4つのリージョン(バージニア北部、オハイオ、北カリフォルニア、オレゴン)、日本では2つのリージョン(東京、大阪)がそれぞれ提供されています。1つの国内に複数のリージョンが存在するのはアメリカ、日本、オーストラリア、カナダ、インドだけとなっています。

 日本とアメリカのリージョン一覧

AWSが重要視する日本市場

日本のような狭い国土に、東京・大阪という2つのリージョンが設置されたことは、AWS本社が日本を重要な市場と位置づけている証左と言えるでしょう。2021年3月2日、アマゾンウェブサービスジャパンは代表取締役社長・長崎忠雄氏による事業戦略説明会を開催し、以下の3つを注力分野として掲げました。

・日本国内のインフラストラクチャの拡充
クラウド移行を加速させる顧客支援体制の強化
次の10年を見据えたクラウド人材育成

この説明会では、大阪リージョンについて「ローカルリージョンとは異なり、AWSの幅広いサービスに対応可能で、オンデマンドインスタンスやSavings Plansも適用できる」と長崎氏は語り、マルチAZ構成が可能になることで、ミッションクリティカルなワークロードや基幹系システムを国内の2地域で稼働させるニーズに応えられると強調しました。

2025年:生成AIとパートナー戦略の深化

それから4年後の2025年5月8日、AWSジャパンはパートナー戦略に関する記者説明会を開催し、以下の4つの領域を新たな注力分野として発表しました。

・生成AI
・マイグレーション・モダナイゼーション
・AWS Marketplace
・人材育成(地方を含む広域展開)

生成AIに関しては、顧客向けサービスだけでなく、SIerなどのパートナーによる開発効率化にも活用を促進。AWSが提供する「Amazon Nova」を含む9つの大規模言語モデル(LLM)から選択可能な「Amazon Bedrock」をマネージドサービスとして提供し、目的に応じてLLMを柔軟に切り替えられる仕組みを整えています。

常務執行役員の渡邉宗行氏は、「パートナーのビジネス拡大と生産性向上の両面で生成AIを活用できるよう、選択肢を広げている」と述べ、AWSの生成AI戦略が単なる技術提供にとどまらず、エコシステム全体の成長を支えるものであることを強調しました。

 

AWS大阪リージョンを使うことのメリット

企業がAWS大阪リージョンを使うことで、具体的にどのようなメリットがあるかについて、具体的に説明します。

 

1.西日本から接続する場合のレイテンシー(遅延)が低くなる

西日本の企業が大阪リージョンを利用すると、一般的に通信速度やレスポンスが向上し、レイテンシー(通信遅延)が低くなります。もっともインターネット経由で通信する場合には、日本のIX(インターネット・エクスチェンジ、中継所)の9割が東京に集中しているので、東京が早い場合もありますが、特にAWSと企業LAN環境を低遅延で接続するAWS Direct Connectサービスを利用してクローズドな接続を確立し、AWSを自社イントラ環境の拡張として使う場合には明らかに高速な通信環境が得られ、大阪リージョンは有力な選択肢になります。

以下に示すのは、大阪リージョンから各地域への平均的なレイテンシーです。

都市 レイテンシー
名古屋 2-5 ms
広島 2-5 ms
東京 5-8ms
福岡 11-13 ms
仙台 12-15 ms
札幌 14-17 ms
ソウル 27 ms
台北 29 ms
香港 38 ms
マニラ 49 ms

※2021年8月時点での数値です。
※詳しくは以下の公式ページを御参照ください。
AWS アジアパシフィック (大阪) リージョンが3つのAZと多くのサービスと共に開設

 

2.AWSの幅広いサービスが東京リージョンと同価格で利用可能

大阪リージョンの主要サービス利用料金は基本的に東京リージョンと同一であり、現時点では約半分ほどの主要なサービスを東京リージョンと同等に利用できます。(※)

※利用できるサービス数(2025年7月時点)
・東京リージョン:216
・大阪リージョン:134

※詳しくは以下の公式ページを御参照ください。
AWS リージョン別のサービス

 

3. 東京リージョンと併用、DR化を実現できる

AZは通常100km以内に位置するとされています。AZをディザスタ対策として活用することも無論可能ですが、大規模な災害が発生したときに企業システムが稼働停止しないためには、DRサイトに十分な地理的距離(少なくとも数百km以上)が求められます。その場合にはMulti-AZ 構成をとっても要求を満たすことができません。

この点において、ローカルリージョンとして登場した大阪リージョンは、東京リージョンから400km離れているため条件を満たしており、十分な地理的距離があるDRサイトとして活用できる可能性が開かれました。

 

大阪リージョンの活用法

上記のような特性を考え、大阪リージョンは次のような要件を持つ顧客への提案に好ましいと考えられます。

1. 西日本地区の顧客における基幹システム等のオンプレミスからの移行先としての提案

以前からオンプレミスからAWSへの移行を考えてはいたが、レイテンシーなどの問題で踏み切れなかった西日本の企業に対して、東京リージョンと同等のサービス利用をアピールできます。

2. 既に東京リージョンを使用中の顧客へのDRリージョンとしての提案

国内にサーバーを置きたい意向があり、既に東京リージョンを利用している顧客のDRリージョンとして、提案メリットがあります。

3. マルチリージョン要件があるシステムの構築

金融など「ミッションクリティカルな大規模災害時にも稼働もしくはすみやかな回復が求められるシステムをリージョンを縦断して設定し、高い可用性を確保する要件」がある企業への提案において訴求効果があります。

 

ATBeXならAWS大阪リージョンとも接続可能

 東京リージョンと大阪リージョンを用いたDR構成図

アット東京が提供している接続サービス、ATBeXは東京と大阪のAWS Direct Connectロケーションとつながっていますので、AWSの東京リージョンと大阪リージョンの二つのリージョンを用いたDR構成を構築することが可能です。

他にも様々な構成パターンを構築することができ、東京のデータセンターのみにラックを置き、AWSへの接続だけDR化するというようなことも可能です。

詳しくはぜひお問い合わせください。

また、大阪リージョンを利用した場合の費用について知りたい方は、下記のボタンから設問に答えるだけで、クラウド接続の推奨構成をご提案します。ご希望の方はそのまま見積依頼をすることも可能です。

大阪リージョンを利用したDR化やマルチリージョンをご検討中の方はぜひご利用ください。

この記事を書いた人 チータ

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