AWS Outpostsとは?概要やメリットについて解説します。

2022.08.10

AWS

はじめに

AWSは日本のクラウドサービスのシェアNo.1を誇っていますが(*1)、そんなAWSのクラウドの新しいサービス形態、AWS Outpostsが2019年にリリースされました。

この記事では、AWS Outpostsとは一体どんなサービスなのか、利用することでどんなメリットがあるのかなどを解説します。是非ご参考にしてください。

*1参考:2022年第2四半期のクラウドインフラ、シェア1位はAWS、2位はAzure、3位Google Cloud。上位3社の寡占がさらに高まる

目次

 

AWS Outpostsとは?

AWS Outpostsとは、自社のデータセンターや自社拠点にAWSのラック、またはサーバーを設置して、AWSを自社のオンプレミスサーバーのように拡張して使えるというサービスです。

このサービスを利用することによって、AWSのクラウドと超低レイテンシーで接続できるなどのメリットが生まれます。一言でいえば、”オンプレミス版のAWS”です。

ハイブリッドクラウドの進化系に当たるAWS Outposts

■イメージ図

aws outposts イメージ図

「オンプレミスのプライベートクラウド」とAWSなどの「パブリッククラウド」を組み合わせて利用する形態を「ハイブリッドクラウド」と呼称しますが、従来のハイブリッドクラウドはオンプレミスサーバーが自社資産となり、メンテナンスなどを自社のリソースで行う必要がありました。

AWS Outpostsはオンプレミスサーバー側もAWS側の資産となり、フルマネージドな管理が提供されます。いわば「ハイブリッドクラウドの進化系」に当たります。 

AWS Outpostsが生まれてきた背景

日本のクラウドサービスのサーバーは現在、東京・大阪周辺のデータセンターに分散して設置されており、非常に大規模で堅牢な施設によって日々の稼働を守られています。そのようなクラウドサービスのサーバーが大規模に設置されているデータセンターを「ハイパースケールデータセンター」と呼称します。

そのようなハイパースケールデータセンターから物理的に離れている地域との接続においては、どうしても遅延がおこってしまい、超低レイテンシーでの接続が求められる案件は要件が満たせないことがあります。

前述のような背景から、ユーザーとの物理的距離がより近い場所にAWSのサービスを展開可能にし、レイテンシーの課題を解消するために生まれたサービスがAWS Outpostsです。 

AWS Outpostsの4つの特徴とメリット

AWS Outpostsの4つの特徴とそれぞれのメリットについて解説します。

特徴1.自社データセンターの中にAWSラックを配置できる

AWS Outpostsを利用すれば、自社データセンターや拠点の中にAWSのラックまたはサーバーを配置してAWSのクラウドサービスと同じように使うことができます。

これにより、AWSとの超低レイテンシー接続が実現可能になります。 

特徴2.AWSのクラウドサーバーと同スペックのサーバーを使用できる

自社データセンターの中に配置するサーバーは、AWSのクラウドサーバーと同スペックのものを使用することができます。つまり、AWSパブリッククラウドを使っている感覚と全く同じように使えるということで、AWS Outpostsだからといって使い勝手が悪くなるようなことがありません。

ただし、AWS Outpostsでは利用できるAWSサービスの種類に制限があります。 

特徴3.管理はAWS側が行ってくれる

AWS Outpostsで利用するラック・サーバーは、提供されるハードウェアも含めてAWS側がフルマネージドな管理を行ってくれますので、サーバー管理のために必要な時間、人的資源、メンテナンスなどにかかる工数を削減することができます。

AWS Outpostsの利用を開始すると、AWSマネジメントコンソールに表示されるようになり、AWSはパブリックリージョンの一部としてOutpostsをモニタリングし、ソフトウェアアップグレードやパッチ適用などを実行します。

物理的なメンテナンスを行う必要が生じた場合は、AWSが訪問して対応してくれます。

特徴4.AWSのVPCを自社データセンターに拡張する感覚で使える

■イメージ図

AWS outpostsイメージ図

AWS Outpostsを設置することで、AWS のVPCを自社データセンターに拡張するような感覚で使えるようになります。

利用を開始すると、AWSのコンソールの中に表示されるようになり、通常のAWSクラウドと同じように操作できますので、今までAWSを使うことに慣れている方にとっては非常にわかりやすいサービスなのではないでしょうか。

AWS Outpostsのメニューに関して

AWS Outpostsの中にはOutpostsラックとOutpostsサーバーの二つのメニューがあります。

それぞれ簡単に説明します。 

AWS Outpostsラック

AWS Outpostsラックは42UのAWSラックを自社データセンターなどのオンプレミス環境に設置して利用するサービスです。

42Uラックとは高さが42段分あるラックのことで、1U(ユニット)サイズのサーバーなどの機器を42台分設置することができます。

具体的なAWS Outpostsラックのサイズは高さ80インチ(203.2cm)・幅24インチ(60.96cm)・奥行き48インチ(121.92cm)となっており、設置するにはこの空間サイズを確保する必要があります。

通常のサーバーラックより奥行がだいぶ長いので注意が必要です。

利用開始時には、完全に組み立てられたOutpostsラックが配送され、設置作業はAWS側で行うので、お客さまは電源とネットワークに接続するだけで使用できます。

通常のクラウドのAWSと全く同じスペックのラックになっており、AWSサービス、APIなどAWS リージョンで利用可能な幅広いサービスに接続できます。

なお、このラックは後述するOutpostsサーバーよりも多くの電力を必要とします。   

AWS Outpostsサーバー

AWS Outpostsサーバーは、1台のAWSサーバーをオンプレミス環境に設置して利用するサービスで、1Uサーバーか2Uサーバーのどちらかを選んで使用します。

1Uの方のサイズは幅19インチ(48.26cm)・奥行き24インチ(60.96cm)・高さ1U、2Uのほうのサイズは幅19インチ(48.26cm)・奥行き30インチ(76.2cm)・高さ2Uとなっており、EIA規格-310 キャビネット内に収まります。

*1Uサーバーとは、筐体のサイズが19インチラックの1区画(ユニット)に丁度収まる厚さ1.75インチ(4.45cm)のコンピュータのことです。

AWS Outpostsサーバーを契約すると、Outpostsサーバーが直接お客さまに配送されますので、自社データセンターの現場担当者か、設置委託会社のいずれかが設置する必要があります。

ネットワークに接続した時点で、AWSがコンピューティングリソースとストレージリソースを構築します。

Outpostsラックよりも必要とする電力は小さいですが、利用できるAWSサービスにも限りがあります。

比較表

AWS Outpostsラック AWS Outpostsサーバー
1U 2U
高さ 80インチ(203.2cm) 1U 2U
24インチ(60.96cm) 19インチ(48.26cm)
奥行 48インチ(121.92cm) 24インチ(60.96cm) 30インチ(76.2cm)
設置方法 AWSが設置 自社担当者か設置委託会社が設置
電源 5 kVA、10 kVA、または 15 kVAから選択 1~2 kVA
ネットワーク
  • 1 Gbps、10 Gbps、40 Gbps、および 100 Gbps のアップリンク速度。
  • 統合されたネットワーク機器が含まれています。
  • ルーティングされたネットワーク上でボーダーゲートウェイプロトコル (BGP) を必要とするローカルゲートウェイをサポートします。
  • 1 Gbps および 10 Gbps のアップリンク速度。
  • 統合ネットワーク機器は含まれていません。
  • 簡素化されたネットワーク統合エクスペリエンスをサポートし、ローカルのレイヤー 2 プレゼンスを提供します。

サポートされている

AWSサービス

  • Compute:  Amazon EC2, Amazon ECS, Amazon EKS
  • Storage:  Amazon EBS, Amazon S3
  • Database:  Amazon RDS
  • Analytics:  Amazon EMR など
  • Compute: Amazon EC2, Amazon ECS
  • その他:AWS IoT Greengrass や Amazon SageMaker Edge Manager
    など

*公式サイト(https://aws.amazon.com/jp/outposts/)から引用

より詳しい情報を知りたい方は上記URLをご参照ください。  

AWS Outpostsを使う上での3つの注意事項

AWS Outpostsは非常に便利なサービスではありますが、使う上で前提となる条件や注意事項がありますので、この章ではそれらについて解説します。 

注意事項1.AWS Outpostsラックの物理的なセキュリティはユーザー側で担保しなければならない

AWS Outposts利用においては、公式サイトで責任分担モデルの一部分が明示されており、お客さま側ではOutposts 周辺の物理的なセキュリティとアクセス制御、ネットワーキングおよび電力に関する環境要件を証明する責任を担っていると書かれています。

AWS側で保管しているデータとそのデータ転送時の暗号化や、データ保護のためのセキュリティ制御や監査メカニズムはAWSから提供されますが、ラック自体の物理的な保守はお客さま側で行わなければならないということです。

つまり、重量・電力要件に関しては自社データセンターの保守担当者などにきちんと伝えて満たしているか確認する必要があります。  

注意事項2.ラック利用のための物理的要件を満たさなければならない

前章でも説明しましたが、AWS Outpostsラックを利用する場合、42Uラックを置くための空間(寸法 80インチ×24インチ×48インチ)、必要とされる電源(5~15 kVA)、ネットワーク環境(1/10/40/100 Gbps のアップリンクのサポート)を用意しなければなりません。

英語ページではありますが、Outpostsラック利用のための要件が以下のページで公開されていますので、ぜひ参考にしてください

https://docs.aws.amazon.com/outposts/latest/userguide/outposts-requirements.html

注意事項3.AWSリージョンへのネットワーク接続が必須

AWS OutpostsはAWSリージョンへの接続に依存しており、非接続状態での運用や、接続が全くない環境での運用向けに設計されていません。

必ず親となるAWSリージョンに接続する必要があります。また、AWSリージョンとAWS Outposts間の接続回線に関してはユーザー側で手配する必要があります。

AWSリージョンへの接続は、「AWS Direct Connectを用いた専用線接続」か「VPNを用いたインターネット経由接続」の中から選択できますが、高可用性を担保できる「AWS Direct Connectを用いた専用接続」が推奨されています。

想定される3パターンのユースケース

この章では、AWS Outpostsは実際にどんなときに利用するのか、そのユースケースについて紹介します

ユースケース1.超低レイテンシーが求められるアプリケーションを構築するとき

想定されるユースケースの1つとして、よりリアルタイム性の高い通信が求められるアプリケーションを構築する場合がまず挙げられます。

例えば、FPSなどのジャンルのオンラインリアルタイムマルチプレイヤーゲームは、少しのタイムラグがプレイヤーにとって非常に不快な経験になってしまうため、少しでもゲームユーザーの近くにゲームサーバーを配置することで、超低レイテンシーを実現し、より良いゲーム環境を提供することにつながります。

高度医療を提供している病院内の医療診断システムなども、リアルタイム性の高い通信が求められるでしょう。

最寄りのAWSパブリッククラウドサーバーが、遅延要件を満たすのに十分な距離にない場合、そのようなシビアなレイテンシー実現のためにはAWS Outpostsは非常に有効です。  

ユースケース2.災害対策

日本において、AWSのパブリッククラウドサーバーは東京と大阪にしかありません。そのため、自社データセンターにAWS Outpostsを設置してシステムを冗長化しておけば、災害リスクを分散できます。

システム化が進み自動化されている製造業の工場、いわゆるスマートファクトリーなどは、工場ラインの稼働データを常にサーバーに送り稼働状況を可視化していますが、工場のラインの制御をパブリッククラウドサーバー上のデータと連携して行っている場合、東京や大阪で災害が起きた場合に被災していない遠隔地の工場の稼働自体が止まってしまうリスクがあります。

AWS Outpostsを工場の最寄りのデータセンターに設置し、冗長化しておけば、災害リスクを分散することができるのです。  

ユースケース3.データレジデンシー要件が厳しい場合

データレジデンシーとは、「データそのものの保管場所」のことです。

ここでは具体的な言及は避けますが、一部の法的基準ではデータレジデンシー要件が厳しい場合があり、その場合企業はデータをローカライズ(その地域内に留めておく)することを強制されます。

日本の場合、データのローカライズを法的に求められることはそう多くはないようですが、銀行や医療などの規制の厳しい業界では、自国外に個人情報などのデータを置くことを避け(さまざまなリスクが想定されるため)、国内にデータをローカライズする場合が多く見られます。

パブリッククラウドサーバーにデータを置く場合、そのデータが実際にはどの国のサーバーで処理され保管されるのかはクラウドベンダーによって決定されるため、上記のような事情で国外にデータを置くことを避けたい場合、企業はおのずと自社オンプレミス環境に重要なデータを置くことを選択するでしょう。

AWS Outpostsを使えば、自社データセンターの中に重要なデータを置きつつ、クラウドとの通信速度を高速に保つことが可能です。データレジデンシー要件が厳しい場合でも、データの保管場所をはっきりと示すことができるため、安心で便利です。

AWS Outpostsを使ったシステム構成例

AWS Outpostsを使わない場合のクラウド構成例

例)自社拠点が九州にあり、AWS Direct Connectを利用してAWSに接続するために自社ラックをハイパースケールデータセンターに置いている

この場合、九州の自社拠点からハイパースケールデータセンターの自社ラックとの間に距離が生まれ、1msec以下のような超低レイテンシーは実現できません。

AWS Outposts 構成例

AWS Outpostsを使う場合のクラウド構成例

AWS Outpostsを契約し、九州のデータセンターに設置すれば、VPCを九州データセンターに拡張することができます。そうすることで自社拠点とAWSとの距離が非常に短くなり、低レイテンシー接続を実現できます。

AWS Outposts 構成例2

 

AWS Outpostsの料金

気になるAWS Outpostsの料金ですが、ラックやサーバーの設定内容によって変わる複雑な料金体系になっており、大まかに説明すると、

・3年間の継続利用

・全額前払い、一部前払い、前払い から選択できる

というものになります。

日本で利用する場合は、最も安くても3年間で約2700万円くらいの金額となります。

詳細な料金に関しては以下の公式サイトをご参照ください。

AWS Outpostsラックの料金について

   

AWS Outposts利用の流れと設置場所について

では、実際にAWS Outpostsを利用する場合はどのような流れになるのでしょうか。

ここではAWS Outpostsラックを例にとり、その設置場所も含めて説明します。

AWS Outpostsラックを利用するまでの流れ

AWS Outpostsラックを利用するまでの流れは大まかに

  1. 設置場所を決定・確保
  2. AWS Outpostsラックを契約
  3. AWS OutpostsラックとAWSリージョン間の通信回線を確保

という3ステップです。

1の設置場所に関しては、大抵の場合エッジデータセンター(最寄りのデータセンター)を選択することになるでしょう。 

設置場所の候補となるエッジデータセンターとは?

■AWS Outpostsラック設置後のイメージ図

AWS Outpostsとエッジデータセンター

エッジデータセンターとは「自社拠点から最寄りのデータセンター」という意味で、サーバーラックを物理的に強固に保護し、24時間365日の稼働に耐えうる環境を提供してくれる施設のことです。

東京や大阪に構築されている一極集中型のハイパースケールデータセンターを補完する形で、近年札幌や福岡などにもデータセンターが建築されています。

北海道や九州の企業にとっては、そういったエッジデータセンターにAWS Outpostsを設置することにより、超低レイテンシーを実現することが可能になります。 

エッジデータセンターとハイパースケールデータセンター間の通信回線を確保

3の通信回線の確保とは、AWS Outpostsラックを設置したエッジデータセンターと、AWSリージョンが構築されている東京または大阪のハイパースケールデータセンターとの間の通信回線を確保する、という意味になります。

この場合AWSの専用接続サービスである「AWS Direct Connect」か、パブリックインターネットを利用した「AWS VPN」の二つから選択できますが、AWS Outpostsラックの利用においてはより高可用性を実現できる「AWS Direct Connect」が推奨されています。

「AWS Direct Connect」について詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

【保存版】AWS Direct Connectとは?概要やVPNとの違い、接続タイプについて詳しく解説!

これら3つのステップをクリアして初めてAWS Outpostsラックを利用する準備が整います。

アット東京では、エッジデータセンター、AWS Direct Connectとの接続回線の2つをワンストップでスムーズに提供することが可能です。

アット東京ならAWS Outpostsの設置場所、AWSリージョンとの通信回線を一括で手配可能

アット東京は東京に4か所、大阪に3か所、福岡に1か所データセンターを設置しています。いずれのデータセンターも、AWS Outpostsの設置が可能です。

2022年秋にはS.T.E.P札幌データセンター内に東京、大阪、福岡に次ぐ新たな拠点として「アット東京 北海道第1センター」(略称: HC1)を開設する予定です。

九州の企業さまや北海道近辺の企業さまは、アット東京の九州第1センター、北海道第1センター内にAWS Outpostsを設置することで、より低レイテンシーでの接続が実現できます。

また、自社データセンター以外にも提携している地方のデータセンターがあり、それらのデータセンターにもAWS Outpostsを設置することが可能です。

提携しているデータセンターに関しては、以下のページの「DC間接続」の項目をご参照ください。

https://atbex.attokyo.co.jp/service/connection-partner/

Outposts設置場所に関してはアット東京にお問合せいただくか、各事業者さまにご相談ください。

エッジデータセンターとAWSリージョンをつなぐ接続サービス「ATBeX ServiceLink for AWS」

AWS OutpostsをつなぐATBeX

また、エッジデータセンターとAWSリージョンが構築されている東京・大阪のデータセンターをつなぐ接続サービス、「ATBeX ServiceLink for AWS」も提供しています。

この接続サービスを利用することで、エッジデータセンターと東京・大阪データセンター間をスムーズに接続することが可能です。

詳しくは以下のページをご参照ください。

https://atbex.attokyo.co.jp/about/cloud-connection/aws/

まとめ

AWS Outpostsの概要について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。その便利さやAWSが提供しようとしている新しいサービスの利便性が少しでも伝わったなら幸いです。

AWS Outpostsと合わせてデータセンターやネットワーク構築をご検討されている方は是非お問い合わせください。



この記事を書いた人 チータ



 

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